親友の名は……

「ご臨終です」
 室内に一瞬の沈黙が流れ、それを断ち切るかのように一人の大柄な軍人が叫び声を上げた。彼は死者の元へ駆け寄り、その胸に顔を埋めて泣く。
「我が友よ、親愛なる我が友よ、何故死んでしまったのだ……」
 患者の周囲に立っていた他の出席者たちは、軍人に冷ややかな視線を向ける。「お前が殺したも同然ではないか」という思いをこめて。
 医者は生命維持装置を外す。
 患者が彼の元へやってきた時、その体は既に死にかけていた。親友のために自らの身を削って献身的に働き、徐々に疲労がたまっていたのだろう。栄養も不足気味で、体のあちこちが病魔に蝕まれていた。一秒毎に死に向かうその姿は、あまりにも気の毒であった。
「何故もっと早く手を打たなかったのだ」との思いに駆られながらも、あらゆる治療を施した。しかし、医者は患者の命を救うことが出来なかった。
 手遅れだったのだ。日本経済の再生など。


愛しき者の名は……ver1,00
 ランプが消えた。
 重い扉を開け、血みどろの手袋をはめたままの外科医が出て来た。その姿を見て、女は椅子から立ち上がる。
「主人は……あの人はどうなりました……?」
 医者は黙って首を振り、女は声を上げて泣き出す。
「ご主人は最後にこう仰いました。『花子、すまない』と」
 女はいっそう悲しげにすすり泣いた。
「あの人、やっぱり他に女を……」


愛しき者の名は……ver1,01
 ランプが消えた。
 重い扉を開け、血みどろの手袋をはめたままの外科医が出て来た。その姿を見て、女は椅子から立ち上がる。
「主人は……あの人はどうなりました……?」
 医者は黙って首を振り、女は声を上げて泣き出す。
「ご主人は最後にこう仰いました。『花子、すまない』と」
 女はいっそう悲しげにすすり泣いた。
「やっぱり、私より犬の方が……」


愛しき者の名は……ver1,02
 ランプが消えた。
 重い扉を開け、血みどろの手袋をはめたままの外科医が出て来た。その姿を見て、女は椅子から立ち上がる。
「主人は……あの人はどうなりました……?」
 医者は黙って首を振り、女は声を上げて泣き出す。
「ご主人は最後にこう仰いました。『花子、すまない』と」
 女は泣き止んだ。
 女医花子は手術室の中へ戻っていった。

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