スペースを含んで文字数を500文字に抑える。それが1000byte文学。


千年目の浮気

「……明日は、会えないの?」
「どうしても外せない用事があってね……」 
 電話の相手は少しばかり沈黙する。
「嘘でしょ。また他の女が出来たのね」
「いや、昔からの約束なんだ。明日は約束の日でね……一日だけだ。一日だけ、どうしても里帰りしなきゃならない」
「里帰り?前の奥さんのところにでも行くわけ?」
 男は遠い目をして天井を見上げた。
「まあ、そんなところだな……」
「困ったね人ね」
 電話の相手が微笑する。男は次の約束を取り付け、電話を切った。そして、また受話器を上げ、次の相手に電話をかける。彼の手帳は女性の名前でびっしりと埋まっていた。
 相手が電話に出た。男は巧みな話術を駆使して、相手を口説きにかかろうとした。
 しかし、今度は勝手が違った。
 女の声を聞いて、男は慌てて電話を切った。手がじっとり汗ばんでいる。
(まさか、そんなはずは……)
 彼が聞いた声は、紛れも無く明日会うはずの女性の声だった。それも、恐ろしい程に低く、不気味な響きを持った声。

 彦星は思った。今年の七月七日は大変な厄日になりそうだ。


デッドゾーン

 今、我々の目の前には異質な空間が広がっている。我々はそこをデッドゾーンと呼ぶ。
 その空間に一歩でも足を踏み入れた者は、ほぼ確実に体の動きを止められ、死を賜る。何名もの勇敢な同士が、冒険家たちが、この空間の持つ危険な魅力に魅せられ、この世から去っていった。
 私とジェイムズはどんな困難にも打ち勝てる最強のパートナー。我らを止めることの出来るものはこの世に存在しない。我々はそう思っていた、少なくともデッドゾーンへ踏み込むまでは。
 そう、我が友もまた、この呪われた魅力に抗いきることが出来なかったのである。彼は必死で足をばたつかせた。蜘蛛の巣にかかった哀れな蝶の様でも、諦めの悪い死刑囚のようでもあった。彼は身動きが取れなくなり、やがて死んでゆくだろう。私は、友の死を黙って見過ごせなかった。
「ジェイムズ!今助けに行くぞ!」
「来るんじゃない……ここからは、誰も抜け出せないんだ……良く聞け、ダニエル……」
 ジェイムズは、こと切れる前に必死で言葉を搾り出した。
「お前だけでも、生き延びるんだ……」


 突然画面が暗転し、画面に二つの英字が現れる。
 「ゴキブリホイホイのJ&D製薬!!」


あるうららかな春の日
 とても暗い顔の中年がいた。
 私は中年に聞く、
「どうしてそんなに元気が無いのですか?」
 中年は答える。
「昔、こんな男がいたんです。男には大事な試験があったのですが、マークシート形式でした。男は「絶対に完璧だ」という確信を持ってマークシートを埋めていきました。さて、男はどうなったと思います?」
「さあ……」
 中年は自嘲気味に、
「男は最後の問題を解き終えて、マークシートを見ました。けれど、最後の円は既に塗り潰されていたんです」
「……」
「……男が解答欄を間違えたと気付いた時、試験は終了しました」
 私は彼の肩に手を置いて、慰めようとした。
「……悪いことを聞いてしまったな、しかし……」
 私の話を遮り、彼は悲しそうに呟く。
「この話には続きがあるんです」
「……続き?」
「男は合格していたんですよ。どうしてだと思います?解答欄を間違えたからなんですよ。……男は結局、悲しみのあまり自ら命を絶ったんです……この場所で」
「そうか……その男はプライドが高かったんだな……」
「そうなんですよ。おかげで単なる試験監督だった私も、そんな男に呪われる羽目になってしまったのです」
 彼は、敵意のこもった目で私を睨み付けた。

解説

 私はつい最近までかなり旧型の携帯を持っていました。
 その携帯のメール送信量が「一通につき500byte」だったのです。
 そんなわけで、携帯で「250文字の超ショートストーリー」を書くのが生活の一部となりました。ここでは、そんな作品の中でもネタが良さそうなものを、500文字に肉付けして書き直して公開しております。
 では少しだけ話の解説を。

 千年目の浮気  (空白含:447文字)
 題名はデュエットソング「三年目の浮気」からのパロディですw
 簡潔に記すと、「一年に一回しか会えない織姫と彦星。が、彦星は一年しか会えない妻に飽きてしまい、地球に下りてガールハントに精を出すことになりました」という、どこかの○○禁メーカーが作りそうな内容のお話です(ぉ
 最後の一行をどこまで暈すか……結局分かりやすいラストにしました。といってもこの内容を想像できる人は少なそうですが……w

デッドゾーン  (空白含:488文字)
 タイトルの元ネタはスティーブン・キングの「デッドゾーン」から。
 話の内容は記す必要も無いでしょうw
 物、動物の擬人化を行うなら、どれだけ前半をシリアスに描けるかです。それで後半のオチが決まり具合が違います。
 ……決まってないですねw

あるうららかな春の日  (空白含:497文字)
 主語のシフトというショートショートの典型。
 伏線を張ってないので、ミステリなら禁じ手でしょうなw
 もう少し会話が軽妙だと良いのですが……。


 とまあ第二回の呟きはこんな感じです。
 次回はもうチョット長い笑い話を一つ書こうかと……。
 暇な方は見てくださいねw

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